Tomohiro Ogawa
#006

The Straight Story

高速な移動は、感情の解像度を下げる。

時速8kmという仕様の必然

現代の工学的視点において、移動手段としてのトラクターは非効率の極みだ。 しかし、アルヴィンにとって時速8kmという仕様は、物理的な制約ではなく、精神的な必然だった。 彼の過去は、戦争やアルコールといった勢いによって破壊されてきた。 高速な勢いは、自己と他者の境界を曖昧にし、関係を破綻させる。 だからこそ、彼は自らの人生の解像度を取り戻すために、極限まで速度を落とす必要があった。 トラクターの旅は、彼が失った時間を取り戻すための償いのための低速処理として機能している。

単機能への没入

タイトルが示すStraight(一直線)は、デザインの究極系を示唆している。 アルヴィンの目的は「兄と一緒に星空を見たい」という一点のみ。 過去にどのような経緯で絶縁したかという複雑なコンテキストは、もはや重要ではない。 多機能で何でもできるプロダクトは、便利だが深みがない。 一つの目的に対して、迷いなく直線的に進むこと。 デザイナーとして目指すべきは、機能過多な万能ツールではなく、たった一つのことしかできないが、それを美しく完遂する単機能の純度ではないだろうか。

広角の心象、接写の現実

リンチは、アイオワの広大なトウモロコシ畑を映す引きと、アルヴィンの深い皺や機械の錆を映す寄りを執拗に使い分ける。 広角映像が彼の内面にある優しさや美しさを描く一方で、クローズアップ映像は、老いという逃れられない物質性を残酷なまでに描写する。 表面的な美しさだけでは、リアリティは生まれない。 美しい心象風景の中に、錆びついた現実のテクスチャが同居していること。 そのコントラストこそが必要である。